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キウイフルーツ果実に含まれるソラレン濃度の測定

 

目的:ネット上には「キウイフルーツにソラレンが多く含まれる」とする記載が多く見られる。しかし、キウイフルーツ果実に含まれるソラレンを定量的に扱った先行研究は皆無であるため、その定量を行うことを目的として、実験を行った。

材料:キウイフルーツ果実は、最も一般的な商業栽培品種である‘ヘイワード’種を用いた。愛媛県産および神奈川県産(2つの異なる圃場のもの)の適熟期果実を実験に供した。

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用の標品として、ソラレンおよびアンゲリシン(イソソラレン)は富士フィルム和光純薬から、また、5-メトキシソラレン(ベルガプテン)および8-メトキシソラレンはシグマ-アルドリッチから購入して使用した。HPLC用のアセトニトリルは、富士フィルム和光純薬から購入して実験に供した。エタノールおよびメタノールは特級試薬を用いた。

方法

(1) 標準溶液の作製:それぞれの標品は、250μg/mLとなるようエタノールに溶解し、保存溶液とした。実験に際しては、これをメタノールで0.02510μg/mLに希釈して、HPLC分析の標準溶液とした。

(2) キウイフルーツ果実抽出液の作製:果実を剥皮し、3果分の可食部を合してフードプロセッサーでピューレ状に破砕した。作製したピューレ5.00gを計り取り、氷冷したメタノール20 mLを加え、ミキサー型ホモジナイザー(ウルトラタラックスT25型、IKE)によりホモジナイズした。これを遠心分離(10,000 × g4℃、10分間)することにより、上清を分取した。沈殿に再び冷メタノール20 mLを加え、同様にホモジナイズし遠心分離を行い、上清を回収し、これら2回分の上清を合した。この抽出液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、冷メタノールを加えて15 mLに定容し、試料の一部をディスクフィルター(0.22 mm)でろ過し、ソラレン定量用の試料とした。なお、上記の操作は、すべて氷冷して行った。試料作製はそれぞれ独立して3回行った。

(3) HPLC分析:ソラレン等の分析は、LiChroCART 250-4 LiChrospher 100 RP-18e (5 mm)カラム4 mm× 125 mmメルク社)を用いたHPLC法により行った。カラム温度は30℃にセットした。移動相はアセトニトリル-水(3565)を用い、流速1.0 mL/分のイソクラティック溶出を行った。注入する試料の体積は 10μLとした。検出器はL-2420 UV-VIS detector(日立)を用い、またクロマトグラムの解析にはD-2500型データ処理装置(日立)を用いた。検出波長は310 nmとした。

結果

(1) 標準溶液の検出限界:直線形フラノクマリンをHPLCで分析したところ、ソラレン、8-メトキシソラレンおよび5-メトキシソラレンは、保持時間5.50分、5. 95分および8.07分にそれぞれ認められた(図1)。クロマトパターンより、この溶出法によって、相互の分離が可能であることが確かめられた。一方、非線形フラノクマリンであるアンゲリシンの保持時間は5.99分であり、8-メトキシソラレンとほぼ同一であることが確かめられた(図1)。

各標準溶液の濃度を0.025μg/mLに希釈した場合でも、標品のピークの認識は可能であり、S/N比も検出可能な範囲であった(図2)。これをさらに2分の1に希釈した場合には、ピークの検出が不能なほどS/N比が小さくなった。そのため、各物質の検出限界値は、0.025μg/mLと判定した。

(2) キウイフルーツ抽出液のHPLC分析:キウイフルーツ抽出液を同様の条件でHPLC分析に供した結果を、図1および図2の最下部に示す。通常の感度での分析(図1)においても、検出感度を限界まで高めた場合(図2)でも、いずれの場合にも、ソラレンおよびそのアナログが溶出する5.50分〜8.07分の範囲には、ピークがまったく検出されなかった。このことから、このキウイフルーツ抽出液に含まれるソラレン等の濃度は、0.025μg/mL未満であることが確かめられた。

この値に抽出液の体積15mL)を掛け、可食部100 g当りに換算するため100/5.0 = 20を掛けると、キウイフルーツ可食部100 g当たりのソラレン含量は、7.5μg0.0000075 g)未満と計算される。通常の感覚では、「キウイフルーツにソラレンは含まれていない」と言って差し支えないレベルである。多くのサイトに記載してある「10 mg0.01 g)程度のソラレンを経口摂取すると、皮膚に影響が出る可能性がある」という話が仮に本当だとすると、133 kgのキウイフルーツ(約1330個分)を食べても、問題はないという計算となる。


ソラレン


5-メトキシソラレン
(ベルガプテン)


8-メトキシソラレン


イソソラレン
(アンゲリシン)