「キウイフルーツにソラレンが含まれる」は事実無根である
ネット上にはいろいろな情報があふれています。昔は一部の有識者とされる人々のみが、テレビや新聞、雑誌などのいわゆるマスメディアで情報を発信することができました。ところが、今ではだれでも簡単にインターネット上での情報発信ができるようになりました。また昨今のSNSの浸透により、いろいろな人が発信した情報が、真偽を問わず玉石混合で一瞬のうちに広範に拡散する時代となりました。今回はその困った一例として、私が研究の対象としているキウイフルーツが、いわれのない汚名を着せられている現状をご紹介いたします。
ネット上には、「キウイフルーツにはソラレンという光毒性をもつ物質が多く含まれている」とか「キウイフルーツを食べてから日光を浴びると日焼けやシミがひどくなるから、朝食べてはダメ」などという内容がまことしやかに書かれたサイトが、本日(2020年2月23日)の時点で200件ほどもあります。
最初に結論を言います。キウイフルーツ果実にソラレンが含まれるという科学的根拠はただの一件も示されていません。ましてや、キウイフルーツを食べると日焼けやシミがひどくなるなどという科学的根拠も一切示されていません。これらの情報に惑わされずに、安心して朝からキウイフルーツをお召し上がりください。
これらのサイトには、キウイフルーツだけではなく、オレンジやグレープフルーツなどの柑橘系の果物もソラレンを含むので、朝食べてはいけないように書かれています。オレンジやグレープフルーツには、確かにソラレンが含まれるとはいうものの、それを食べたからといって日焼けが増すなどということを示した科学的根拠も全く見つかりません。そもそもソラレンの光毒性は、食品加工などで問題になるフェオフォルバイドなどに比べると、極めて弱いものです。このように、何ら根拠のない情報が、なぜこんなにも拡散してしまったのでしょうか。
実はこの情報源は、全国版の某テレビ局が2015年に放送したバラエティ番組の内容でした。番組の放送終了後は、このテレビ局の公式ホームページに放送内容が掲載され、そこからいろいろなサイトに広がりました。なぜかというと、この手の健康情報は多くのサイトが自分のページのコンテンツとして掲載したがるためです。身近な健康情報ですから、内容に興味をもった個人が自分のサイトに掲載することもあるでしょう。また、プロのライターに関連記事を書かせて、自分のサイトのコンテンツとする、商用サイトも数多く存在します。これらの商用サイトが、SEO(サーチエンジン最適化)対策やそれに伴う広告収入アップを目指すためには、願ってもないネタとなるわけです。それはそうでしょう。美肌のために食べていたビタミンCたっぷりのフルーツが、かえって美肌を遠ざけていた、などという架空のストーリーは、多くの人の関心を集めそうですから。
これらの根拠のない情報の拡散は、まだまだ続きます。多くのサイトでは、フェイスブックやツイッターなどのSNSを通じて情報を拡散させるツールを持ちますので、いとも簡単に複数の人へと伝わります。やがてこの根拠のない情報を信じて、「ウィキペディア」に書き込む人や、「Yahoo! 知恵袋」その他のQ&Aサイトに質問したり回答したりする人が現れます。また、「まとめサイト」などでも絶好のテーマとなってしまいます。さらには怪しげな書物を書いて出版する人まで現れて、こうなるともうだれにも止められない惨状となります。
では、どうしたらこの根拠のない情報を消すことができるでしょうか。本来ならば、情報発信元のテレビ局が訂正とお詫びを公表すべきでしょう。しかし、テレビ局の公式ホームページのサイトポリシーには、次のように書かれています。「本サービスに掲載する情報について様々な注意を払っておりますが、内容の正確性、有用性、安全性、その他いかなる保証を行わず、これらを担保する義務を負うものではありません。(中略)万一、本サービス上のコンテンツのご利用、もしくはご利用になれないことにより何らかの損害が発生した場合も、当社は、何ら責任を負うものではありません。」つまり、身もふたもなく要約すれば、「正しいかどうかは保証しないし、もしもこの内容を真に受けて損害が出ても法的責任はもちろん、社会的責任も道義的責任もウチにはありません」と公言しています。よほどの健康被害などが発生して、行政指導や行政処分でもない限り、訂正は望めないということです。
私は2016年と2020年に、このテレビ局に「キウイフルーツ果実にソラレンが含まれている」ことを示す根拠資料を開示していただくよう求めましたが、何の回答もありませんでした。上記のサイトポリシーに従えば、全く答える必要はないということでしょう。ただ、私はこの態度を必ずしも責めるつもりはありません。そのくらいに割り切らない限り、あれほど面白い番組を次々と制作し、毎週放送することなどできるはずがないからです。
「ライオンが動物園から逃げ出して、街中をうろついている」などという誤情報であれば、比較的早期に誤りであることが判明します。そのため、誤った情報は速やかにネット上から淘汰されます。しかし、今回ご紹介したような健康情報は、「根拠がないこと」を多くの人に伝えることが非常に難しいため、一度ネット上に拡散されてしまうといつまでも存在し続け、やがて事実であるかのように独り歩きを始めてしまいます。
現在私は、それぞれのサイトに1件1件お願いをして、根拠のない情報を消していただいています。すぐにご理解をいただき、1〜3日間程度のうちに修正していただけるサイトもあり、大変有難く思っています。しかし、中には全く反応してくれないところもあります。さらには、そもそもサイトの管理者がわからない所もあれば、連絡先や問合せ先、コメント欄などが一切ないサイトも少なからずあります。まさに書き逃げ状態です。WHOIS検索などによって対応できる場合もありますが、対応に時間がかかります。そうこうするうちに、それらのサイトからまた情報が拡散していることでしょう。終わりが見えませんが、根気強く地道に対応して行こうと思います。